ニセコ に住む人々 #03 "おとなりさん" - りんごケーキ2切れを6人で食べる
この記事は「ニセコ に住む人々」シリーズの第3回目です。
これまでの記事はこちらからどうぞ↓
#01 プロ・スノーボーダー Eさん - 幸せの在り方は人それぞれ
#02 不動産会社 Tさん - 陳腐な同情なんていらなかった
"おとなりさん"
我が家の隣には、オーストラリア出身のだんなさまとイギリス出身のおくさま、ちびっこ2人からなるファミリーが住んでいる。彼らは、ニセコ に住み始めてから10年にもなるそうだ。もうすっかりこの地に根付いている。
ある日15時頃スノーボードから帰宅すると、ちょうどおとなりさんの夫婦が屋根の雪下ろしをしていたところだった。その日は温暖な日で、ふたりはスキーウェアのジャケットを脱いで、つなぎ一丁だった。雲ひとつない青空に、ばっちりな羊蹄山の背景。薄着で、缶を片手に、時折それを飲みながら作業を進めている。ギラギラする太陽に、きらきらと光を振りまく雪もあいまってか、ふたりはなんだかビーチにいるような感じがした。(実際は真冬なのだが。)
屋根の上にいるふたりに向かって「それ、ビール飲んでるの?」と聞くと、「いや、これはただのジュース。ビールは除雪のあと!」と笑って返してきた。そんな会話の流れで、「あとでうちに飲みにくる?」とお招きいただいたので、ぜひとも、といった軽いノリでお邪魔することになった。
おとなりさんからお招きいただくのは、なんだか嬉しい。ちょくちょく顔を合わせるし、ちょっとしたスモールトークをしたりもするが、もっとお互いのことを知り合う良いチャンスだ。
ニセコ にきてから、ローカルの人とじっくり話をするのは初めてだったので、いろいろな喜びが重なる。
苦し紛れのりんごケーキ2切れ
さて、お邪魔する際に飲み物かなにかを持っていきたいのだが、その日、我が家にはなんにも残っていなかった。しかしラッキーなことに、スノボ帰りに、ふだんケーキを買わない私が本当にたまたま買った「りんごケーキ2切れ」があったので、苦し紛れではあるがそれを持っていくことにした。
我が家からはお隣さんの家の外観が見える。が、はじめてお隣さんの敷地内に入り、家のチャイムを鳴らす、というのは少々どきどきする。
そんなドキドキをよそに、おとなりさんは我々を快く招き入れてくれた。中に入ってみると想像だにしない空間が広がっていた。土間があり、暖炉があり、木製の大きなダイニングテーブルがあり、オープンなキッチンがある。昔のような暖かさがあり、モダンなお洒落さもある。素敵な空間だ。
そして席につくなり早々に私は言い訳をはじめなければならない。「何か持ってきたかったんだけど、我が家にはいま何もなくって...数も足りないんだけど家族で食べて」とりんごケーキを手渡すと「なにもいらなかったのに。むしろありがとう。」と笑顔で受け取ってくれた。
2切れを6人で食べる
そしてまもなくすると、彼女は1切れを3等分に切り分けて、6人分にして出してくれた。彼女はきっと何も考えずに、さらりとそれをしてくれたのだろうが、3等分にされ、ほっそくなったりんごケーキが、なんだか優しさに満ち溢れて見えた。
それから、ビールで乾杯し、ビールには合いそうもないが、意外と合わなくもないりんごケーキを食べながら、いろいろな話をした。(考えてみれば、シードルビール(りんごビール)が存在するので、そもそも両者は相性が良いのかもしれない)
みんなでシェアする喜び
限られた量を、大人数でわけるというのはいつぶりだろう。しかも「本来2人分」を、6人でだ。
おとなりさんは「みんなでシェアする喜び」というものを、ほっそくなったりんごケーキを通して改めて教えてくれた。
ちなみに、ほっそいケーキといえども、なかなか濃密なケーキだったので、私にはちょうど良かった(むしろ多いくらいだった。)
キッズたちには、もの足りなかったかもしれないが。