ニセコ に住む人々 #04 整骨院院長 Dさん - 何歳になっても、挑戦し続ける

All About Heart @Nashy, 2021

この記事は「ニセコ に住む人々」シリーズの第4回目です。
これまでの記事はこちらからどうぞ↓

#01 プロ・スノーボーダー Eさん - 幸せの在り方は人それぞれ
#02 不動産会社 Tさん - 陳腐な同情なんていらなかった
#03  "おとなりさん" - りんごケーキ2切れを6人で食べる

——とうとう、やってしまった。——
2月のはじめ、スノーボード中に、左膝を痛めてしまった。パウダースノーのぼこぼこ斜面をうまくさばけなくて、捻ったような感覚。なんとか山の麓まで降りることができたが、左足がふらつき怖い思いをした。

生活する上での支障はなく、医者に診てもらうほどでもないような気もする。だが、1週間後スノーボードに行くと、やはり膝が不安定で全く滑られなかった。整形外科を探していたところ、ちょうど、「ニセコ に住む人々」第3回で紹介した"おとなりさん"から整骨院を教えてもらったので、足を運んでみることにした。

Dさん

さっそくDさんの整骨院に電話をかけてみる。「19時半だったらなんとか入れる」とのことだったので、せっかちな私は当日のうちに滑り込むことにした。

19時半頃、マイケル氏に送ってもらい、ついでに一緒に中で待っていてもらうことにした。中はアットホームな雰囲気で、ベッド3台ほどと様々なマシーンが置いてある。3人ほど、先客がいた。おそらくリピーターの方で、いろいろなお話をしていた。

Dさんは明るく笑顔でハキハキ話す人で、聞き上手だ。Dさんの人柄が人を惹きつけるのだろうな、と院に入った瞬間に感じた。頭に巻いたタオルが印象的だ。

さて、順番が回ってきた。様々な動作確認をしてもらった結果、おそらく半月板を痛めたんじゃないか?ということだった。ベッドに横たわり、マシーンを使ったりしながら、Dさんのケアを受ける。

怪我するのが、デフォルト

ところで、私は、人生で一度も怪我をしたことがない。

それを話すと、Dさんは「それも要因かもしれないね〜」と苦笑いしていた。初めての怪我だと、脳が過剰反応して、筋肉の動きを鈍らせる作用があるそうだ。マイケル氏からは、「これまで怪我をしたことがないなんて、本気でスポーツをしてきていない証拠だ!」なんて笑われる始末だ。(一応、本気でしてきたつもりなのだが......。)

「僕みたく怪我ばっかりしているとさあ、」とDさんが続ける。「あ、またかって感じで、これくらいならテーピング巻いてすぐ滑りに行っちゃうんだよね〜。」と言う。「うんうん」とマイケル氏が相槌を打つ。

ちなみにこれまでDさんは、ある時は木に衝突して大腿骨をやったり、ある時は首を骨折したりして、"ヤバい"怪我を経験してきたらしい。マイケル氏も前十字靭帯を断裂したこともあれば、サッカーで右腕ちょっと折ってきました、なんてこともあった。とにかくスポーツしに行けば、怪我して帰ってくるのがデフォルトなのだ。そして怪我することがまるで勲章かのように振る舞うものだから、呆れてしまう。

怪我慣れしている男たちの前では、どうやら私の怪我なんて朝飯前らしい。

ライフステージに合ったスタイル

もうすでに先客は帰り、院には私とマイケル氏のみになっていた。兎にも角にもスノーボードの会話に花が咲いていた。

手厚いケアだからなのか、会話が盛り上がっているからケアが終わらないのか、Dさんのケアを、かれこれ1時間ほど受けているような気がする。←

紹介が遅れたが、Dさんは現役ばりばりのライダーだ。多くは知らないが、若き日から多数のブランドにサポートされ、スノーボード界に数々の伝説を残してきたとみている。

Dさんから唐突に「どんなスタイルで滑るの?」と質問された。私は初心者なので「スタイル」というものが存在することさえ知らなかったと伝えた。

「Dさんはどんなスタイルなんですか?」と聞くと、「ぼくはね〜!」とDさんの目は輝き出した。

「雪山に、サーフィンをしに行ってるような感じ!」

「若い頃はジャンプとか派手なことやってたくさん怪我してたんだけど、最近じゃずっとこの『スノーサーフィン』のスタイルだね〜。その日の風向きとか見て、最適なゲレンデ を選んでさ〜。山の地形を見て、波を見つけるのが楽しいのなんのって。無茶なジャンプとかもしないから、怪我もしないしさ。」

Dさんのスノーボードへの情熱が止まらなくなる時は、ケアの手が止まる時である。Dさんも自覚があり「あ、ごめんね、手止まっちゃって。でもこれは手で表現したい!」とスノーボードの板のカーブとか、山の斜面などを、文字通り・手取り足取り表現して、色々教えてくれる。

Dさんに学ぶ「いくつになっても、やりたいことはずっとやり続けられる」ということ

私は、山岳登山をやる。山岳登山は、老若男女が楽しめるスポーツなので、いくつになってもやっているんだろう、と思っている。

一方で、スノーボードは「激しいスポーツ」で、若いうちしかできないと思っていた。きっと自分は30代くらいで辞めなければならず、子どもができた暁には「スノボ?過去やってたよ」と言うのだろう、とまで思っていた。

しかし、Dさんの話を聞いて、何歳になっても私はスノーボードや、いろいろなことを諦めなくて良いのだ、と気がついた。Dさんは、上記に書いたような"ヤバい"怪我を経験して、それでもなお、いくつになっても何度も何度も表舞台に返り咲く。挑戦し続ける姿が、シンプルにかっこいい。

なんのスポーツにおいても、「流派」とか「スタイル」みたいなものがたしかに存在する。いくつ歳を取ろうが、その歳なりの、対象との「つきあい方」がある。それを何時もしなやかに変え、挑戦し続ける。もし体のどこかが機能しなくなったら、機能するところでつきあい方を考える。これはスポーツに限らず、趣味や仕事、きっと人生の何事においても応用が効く考え方だろう。

強くなった左膝

家に帰ってSORELのブーツを脱ぐ。怪我をしてから、ブーツを脱ぐ時は膝が痛みしんどかったのだが、Dさんのケアを受けた後は、まったく痛まなかった。不思議だ。

その後、1週間ほどおやすみをし、怪我から合計3週間ぶりにゲレンデ に戻った。膝の痛みがでないか、ブランクで下手くそになっていないか、不安でいっぱいだったのだが、なんと今までで一番良い滑りができてしまったのだから、これまた驚きだ。

そこには、怪我を経て、ひとまわり強くなった自分がいた。

今の自分のライフステージでは、もう少しだけ無茶しても良さそうだ。

P.S. ちなみにDさんは、朝一で滑って、昼から整骨院を営業している。彼こそ、紛れもない「ファースト・トラックを求めてやまない人たち」のひとりである。

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