月に狂わされた夏目漱石
先日2021年2月27日(土)の満月、いわゆる「スノームーン」は見られただろうか?
全国各地で広く観測ができたという記事を読んだが、こちら、北海道のニセコ でも、まぶしいくらいの明るい月が見られた。
いつも、シャイで、もはや存在が「無い」に等しい羊蹄山も、先日は雲ひとつない夜空に、満月に照らされて、それのシルエットが露わになっていた。
しかし、あの夜の羊蹄山は、いつもとは様子が異なっていた。
漆黒で巨大なものがズン......!と目の前に迫りくるような感じで、それでいて異様なほどの静かさも相まって、少し不気味で、妖艶でさえあった。
羊蹄山を遠景に置き、近景では、満月に雪がキラキラと照らされて、その様は、文字通りのスノームーンであった。自分の中の何かが、ちょっとおかしくなるくらい、うっとりする景色だった。
さて、夏目漱石が「I love you」を「月がきれいですね」と訳したという逸話は有名であるが、それをマイケル氏に話すと、「ふぅん、変人だね」と一言でノックアウトしてしまったから吹き出してしまった。
実は私も長年そう思っていたのだが、「きっとロマンチックなものなのだ」という世間の解釈に合わせて、口にしないできたことを......日本の誇る文豪をサラりと変人扱いしてくるとは。
......きっと、月が夏目漱石を狂わせたのだ。
「lunatic」ルナティック。英語で「狂った」とか、「狂気的な」とかいう意味だが、語源は古くから「ルナ=月」が人を狂わすと信じられてきたところにあるらしい。
「月がきれいですねぇ」とドヤ顔でマイケル氏が言ってくる。「きれいですねぇ」と返し、ふたりの笑いが止まらなくなった瞬間であった。
その光景は、はたから見れば、狂気的であったに違いない。