続・羊蹄山は今日も、無い。
北海道・ニセコ で過ごす2回目の冬。
昨年に引き続き、羊蹄山は今日も、無い。
それも、もう約1ヶ月ほども「無い」のである。以前住んでいた家は、リビングから羊蹄山を臨める間取りだったため、望まずとも「ある」瞬間を捉えることが可能であった。
現在の家においては、一部の部屋は羊蹄ビュー付きではあるが、日中の大半を過ごすスペースからは見られない。そのため、もしかしたら一時はそれが「あった」のかもしれないが、この1ヶ月の私の行動範囲の中で現れてくれることはついぞなかった。
しかし、「無い」ことにも慣れてしまうもので、私は昨年と同様に「無い代わりに、自分の心に羊蹄山を鎮座させる」ことを覚えた。それはどんな嵐が吹こうとも、揺るがずにそこにありつづけるのだ。
……なんて哲学じみたことを羅列している最中、トイレにいる夫が「おー!」と声を上げるのが聞こえてきた。リアルな羊蹄山が、文字どおり本当に出てきたらしい。
いちもくさんに家を出てその姿を直に拝む。めったにないクリアな天候に、久しぶりに「ある」ことも相まって、朝から私の心はそこらじゅうに舞っている。
いや、きっと羊蹄山を見た人々すべてが、「羊蹄山麓の町」という名の彼女の手のひらの上で、踊らされては、転がされているのだ。
いくら絵を描いても、写真を撮っても、心にレプリカを作っても、やはり「ほんもの」にはかなわない。