つねに最安値を求めていると損する理由

Life Support @Nashy, 2021

スーパーの惣菜や日用品、衣類、電化製品、趣味用品...何にしても、できることなら「最安値」で買いたいものだ。それに、最安値という値段よりも、「最安値で買えた」という購買体験自体が、気持ちよかったりするのではないだろうか?

しかし今回、何を隠そう、「つねに最安値を求めている私」が、「最安値を求めなかったことで」、良いことが巡ってきたので、シェアしたい。

車がなければ生活ができない

私は今、パートナーのマイケル氏とともに、北海道のニセコ でお試し移住をしている。
そして、田舎生活において、欠かすことのできないライフラインとなるのが「車」である。

私たちは東京で生活をしていたので、車を持っていなかった。

東京にいるうちから車の手配を進めておかないと、現地入りした時に大変になるのは目に見えているので、直ちに車を手配しなければならなかった。

ニセコ には中古車を取り扱っているところがあまりなく、「札幌で中古車を買うか、ニセコ で個人売買をする」などの選択肢が一般的だということを、不動産会社の担当Tさんから聞いた。

ニセコ 入りから3日間分は、レンタカーを手配したが、レンタカーは高いのでずっと借りているわけにはいかない。

Eさんとの出会い

本当に運の良いことに、とあるFacebookページにて、「車を売りたい」という投稿を見つけた。

売り手は、アメリカ出身・ニセコ 在住のEさん
彼が売りたいという車は、走行距離14万km超えの6人乗りの黒色のワゴン車だ。値段は29万円。走ってきた距離の貫禄は感じさせない、きれいな外見をしている。おまけに、スキーやスノボを挟むことのできるルーフラックがついている。
車の紹介ページには、車のシートを倒して、その上にマットレスを引き、シーツをかけてキャンピングカーのように使っている写真も載せており、「この車、楽しそう!」というのが第一印象であった。

さっそく問い合わせてみると、すでに、かなりの数の問い合わせがあったようだった。

わたしたちは「ニセコ に移り住むのが決まっていて車が今すぐに必要なこと、車を気に入れば、Eさんの言い値で買う意思がある」旨を伝えると、「数ある問い合わせのの中で、私たちが一番コミットしてくれている」ということで、私たちが東京からニセコ にやってくるまで車をキープしておいてくれた。

後日、ニセコ 3日目のレンタカー最終日に、Eさんのアパートに向かい、Eさんと一緒に試し乗りをして、結果、そのまま購入にいたった。

車の相場がわからない

私たちは車を買ったことがないので、基準にするものさしがない。それに、購入の際に必要な手続きなどもわからない。
移住を2週間以内に決めた当初、入念に調べている時間もなかったので、圧倒的に情報不足の中での取り引きであった。

今回、Eさんの車の言い値は29万円だ。
この金額を、どう思われるだろうか?

実際に、試し乗りをしてみると、車は雪道でもパワフルに走り、快適そのもの。「これで29万円は安いなあ」といったのが、なんの知識もない私たちの印象だった。

...では、そのまま買ってしまえば良いではないか?

うごめく、黒い感情

私は、根っからの貧乏性で、昔、がっつり営業の仕事をやっていたこともあり、「値切る」「値切られる」ということを当たり前にやってきた人間だ。

それに、冒頭でも記したように「最安値で買えた」という購買体験自体が気持ち良かったりするものだ。なんだかすごく根性悪そうに思われるかもしれないし、嫌われるかもしれない。自分でもこんな自分に嫌気が差すのだが、これが私の本当の姿なのだからしょうがない。

値切れなくてもいいから、まずは交渉してみることに損はない。

でも、こちらの希望をプッシュしたりしすぎると、バランスを崩して結局取り引きすら行えないこともある。そうなったら、お互いに機会損失だ。お互い後味の悪い思いをしてしまうし、切ない。そして、お互いの時間を無駄にしてしまう。

そうは、したくない。

値切らないという選択をしてみた

Eさんは、「もしこの車を私たちに譲ることができれば、そのお金を元手に、友人から中古車を譲ってもらい、アップグレードしたい」とのことだった。

それに「もし誰からも買ってもらえなくても、この車を気に入っているから、乗り続ける」といった様子であった。なんだか、そんな思い入れのある車を譲ってもらうことに、逆にありがたい気持ちになった。

上記で記した、「黒い感情」は和らいでしまった。
Eさんが「良い人」そうに見えたからというのもあるだろう。

こちとら、車がないと生活できないし、他の車探しにかける時間が惜しかったので、値切りは一切しないことにした。なにより、この車がすでに良いと思っている。Eさんとは気持ちの良い取引がしたい。

即決だ。「時は金なり」の精神である。

嬉しそうなEさんをみて、わざわざ、ややこしくしないで良かった、と思えた瞬間であった。

もしかして、もしかすればだが、Eさんにはすこし値引きをする余地があったかも知れない。でも、それをせずに、お互いに時間も労力もセーブできて、ハッピーだったのではないかという気づきだ。

Eさんもハッピー、私たちも必要なときに・必要以上の素敵な車が手に入ってハッピー、でWIN・WINである。

購入後すぐに、私たちはレンタカーを返却し、Eさんから譲り受けた車で帰宅した。

人生はじめて買う車は、なんだか感慨深い。

WIN・WINがつむぎだす、ハッピーサイクル

2週間ほど経った頃、私の不手際により、車のバッテリーが上がってしまったことがあった。

すると、Eさんが夜22時と遅くにもかかわらず、しかも大雪で視界が悪い中、我が家まで駆けつけてくれた。——友人から購入した新しい車に乗って。——そして、そのEさんの新しい車から、以前Eさんが愛用していた、私たちの車にバッテリーをつないでくれた。

私はこの光景を見て、なにか、あたたかいものを感じずにはいられなかった。

私たちが購入したお金で、Eさんは新しい車を譲ってもらった。Eさんの友人もまた、Eさんに車を譲ったことでハッピーなはずだ。そして、私たちが困ったときに、Eさんはバッテリーをつなぎにきてくれた。

時間を買うか、時間を使って値切るか

価格交渉には、価格が下げられるかもしれないというメリットがある一方で、しばしば時間や労力などが消費されるというデメリットがある。
今回は、時間を買った(=値引きをせず、時間をセーブした)結果、お金・時間・労力、そしてそれ以上のものが我々に返ってきた。

今回の事例から学べる要点はざっくりいって3つだろうか。

問い合わせ時点で、Eさんの言い値で買いたい意思があると言ったことで、Eさんが車をキープしておいてくれた。

試乗後、不毛な価格交渉をしない選択をし、スムーズな取引ができたことで、Eさんと良い関係が気づけた。

良い関係を築けたからこそ、私たちが困っている時に、大雪の中でも駆けつけてくれた。

ふだん「最安値を求めている私」が、今回は「時間がなかったこと」や「Eさんの人柄」から、「最安値を求めない」ということを、"意思をもって選択"することで、たったひとつの購買体験ではあるが、実にいろいろなことを学ぶことができた。

この車に出会えて、私たちの生活はすごく豊かになった。人生ではじめて購入する車が、こんなにも心温まるストーリーを乗せてくるとは思わなかった。

そのあとの、書類手続きはめんどくささの極みであったのだが、それはまた次回にして。

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