ニセコ に住む人々 #06 石油の小西さん - 固定概念をぶち壊す、バター飴

"この記事は「ニセコ に住む人々」シリーズの第6回目です。
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#01 プロ・スノーボーダー Eさん - 幸せの在り方は人それぞれ
#02 不動産会社 Tさん - 陳腐な同情なんていらなかった
#03  "おとなりさん" - りんごケーキ2切れを6人で食べる
#04 整骨院院長 Dさん - 何歳になっても、挑戦し続ける
#05 Yさん - オトナの秘密基地で産声をあげた、1人のイラストレーター

——今月も、もうそろそろ"小西さん"が来る頃だ——

家の中が暖かい

北海道といえば「寒い」というイメージがあると思うのだが、それは正解である。しかし、ひとつ、目からウロコなのは「家の中は暖かい」ということだ。どうやら、こちらのほとんどの家が、二重サッシの窓を採用しているらしい。

前回このシリーズで紹介したYさんも、「東京の友達の家に泊まったら、寒くて震えが止まらなかった!」なんてことを言っていたので、やはり北海道の家の中は温暖なのかもしれない。

外気温がマイナスだとしても、ストーブをつければあっという間に部屋は20度くらいまで温まる。そして、外気温が0度なのに、家の中ではマイケル氏が半袖・半ズボンで過ごすというギャップにも、近頃では慣れてきてしまった。

家の中に組み込まれているFF式ストーブ

我が家をあたためてくれるのが、一見、暖炉のように見えるお洒落なストーブだ。これが、家の一部と化したように、それぞれの部屋の片隅に固定設置してある。

「FF式ストーブ」という設計らしく、燃焼ガスは給排気筒を経由して屋外に排気される仕組みになっており、家の中がガス臭くならない。

そして、家の外にはどでかいタンクが設置されており、そのタンクから家の中のストーブ計3台すべてに、灯油が配給される仕組みになっている。タンクに灯油をためておけば、灯油を切らしたり、いちいち自分で汲む必要がないのだ。カシコい。

ニセコ 界隈では、しばしばこのどでかいタンクが設置されている家を見るので、こちらではこれがデフォルトなのだろうか?

灯油の定期配送というシステム

賃貸契約をする際に、不動産会社のTさんから、「電気・水道の契約のほか、灯油の定期配送も自分で契約してね」と申し伝えられ、連絡先一覧をもらった。灯油の定期配送の行には「小西石油」と書いてあり、横に電話番号が添えられていた。

灯油の定期配送とは...?という感じだったが、なんでも、上記で書いた「どでかいタンク」に定期的に灯油を詰めに来てくれるサービなのだとか。

早速、小西石油に電話をすると、おばちゃんらしき人が電話を取ってくれた。定期配送をお願いしたい旨を伝え、住所を言うと「え?ん?どこ?いま地図見てみるから待っててねー」と電話を保留される。

こういう、かしこまらない地元感満載のやりとりが好きだ。

「あーあー、あそこかな?あの建物の近く?」とおばちゃんが続ける。「いやあ私も越してきたばかりでちょっとまだわからないんです、すみません...」と謝っている間も、おばちゃんは住所探しに苦戦している。

ヒントになるかは分からないが、「夏の間は●●さんていうオーナーさんが住んでいるみたいなんですけど...」と話すと、「あー!●●さんの所ね!はいはいはい!じゃ、後日お宅に伺うから!」と分かっていただけたようで、無事にアポイントを取ることができた。

Googleマップでもなく、紙の地図でもなく、人の名前を言ったほうが、ことがスムーズに進む感じがこれまた痛快だ。

石油の"小西さん"

後日、ピンポーンと家のインターホンが鳴った。

ドアを開けると、"小西さん"が来てくれた。"小西さん"は、60代くらいの、小柄で、人当たりの良いおじちゃんだ。ちなみに、小西さんはその方の名前ではないが、小西石油の方だから、"小西さん"と勝手に読んでいる。

小西さんは「定期配送希望と聞いてきましたよー。今からタンクの残量、確認してくるから待っててね!」と言い、そそくさと家の裏に設置されてあるタンクの方に回り込む。

約10分後、またピンポーンとなり、ドアを開けると、そこには全身・雪だらけの小西さんが立っていた。

家の裏に回り込む、とは一言で言っても、家の脇には雪が積もっているので、家の側面に沿って歩けるわけではない。まずは玄関先の正面の敷地を出て、家の裏側の敷地からアクセスしなければならない。タンクに辿り着くには、身長ほどにも積もった雪を踏み締めて、雪に埋もりながら行かなければならなかったようだ。盲点だった。

雪まみれの小西さんを見て、なんだか申し訳ない気持ちになってしまった。「なんだか、すみません...」と謝ると「いーのいーの、これも仕事だから!」と、小西さんは明るい。

「タンクの残量確認したけど、あんまり減ってなかったよ。燃費がいいねー!」とのことだった。

Werther's Originalの飴

代金をその場で払い、領収書をもらった後、「じゃ、だいたい1ヶ月後くらいに、また来るからね!」と小西さんは言い、「はい、これ2人にあげる!」とマイケル氏とわたしの分と2つ、Werther's Originalの飴をくれた。

「わー!ありがとうございます!」と咄嗟に受け取ったが、じわじわと嬉しさがこみ上げてくる。飴のそれ自体よりも、「お近づきの印に」的な意味合いを勝手に感じ取り、そんなご好意が素直に嬉しかった。(小西さんからすれば、ただ飴が余っていただけかもしれないが)

しかも、おじちゃん=「ハッカ飴」とか「きなこ飴」とかのイメージがあるのに(超失礼である)、Werther's Originalとはこれまたハイカラではないか。

さらに、「大阪のおばちゃん」こそ「飴ちゃん」だが、「北海道のおじちゃん」から「飴ちゃん」を頂けるとは思いもしなかった。小西さんは、良い意味で、私の中のステレオタイプをぶち壊してくれた。

そんな、数ヶ月前の話であった。

まだまだ寒さが続くニセコ ではあるが、小西さんのおかげで、我が家は今日もあたたかい。
小西さんのおかげで、外気温が氷点下でも、マイケル氏は半袖・半ズボンで過ごせている。

もちろん私は長袖だが。

P.S. ——今月も、もうそろそろ"小西さん"が来る頃だ——タンクのまわり、家まわりの雪かきはバッチリだ!

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